日本昔話新解釈:第4話「鬼の正体」

前回の話

三保の松原で天女と遭遇した山田博士。天女は人類が環境を破壊したことで守護者としての契約を破棄すると告げて消えた。次なる異常現象は岡山県で発生した。

第4話「鬼の正体」

岡山県、吉備津神社。桃太郎伝説の舞台として知られるこの地は、異様な雰囲気に包まれていた。

神社の周囲の山々から、地鳴りのような音が響いていた。時折、山肌に巨大な影が動くのが見える。

「まさか、鬼が…?」

佐藤の声が震えていた。地元の人々は家に閉じこもり、街は死んだように静まり返っていた。

山田は意を決して、音の発生源である山へ向かった。そこで彼が見たものは、想像を絶する光景だった。

巨大な人型の存在が、山を掘り返していた。その姿は確かに「鬼」を思わせたが、よく見ると、それは生物ではなかった。土と岩でできた巨人。いや、山そのものが人の形をとって動いているのだ。

『人間どもよ』

地響きのような声が響いた。

『我らは、お前たちが「鬼」と呼んだ存在だ。だが、我らは悪鬼ではない。大地の守護者だ』

山の巨人は、掘り返した土の中から、大量の産業廃棄物を取り出した。

『千年前、我らは人間と契約を結んだ。我らは地下で眠り、大地を安定させる。人間は地上で暮らし、大地を汚さない。それが約束だった』

巨人の体から、黒い液体が滲み出していた。地下に投棄された有害物質が、大地の守護者を蝕んでいたのだ。

『桃太郎の物語を覚えているか?あれは、人間が我らを「退治」した話ではない。我らと人間が和解し、共存の道を選んだ物語だったのだ』

山田は衝撃を受けた。日本の昔話は、すべて人類と自然の守護者たちとの「契約書」だったのか。

『だが、お前たちは約束を忘れた。大地に毒を埋め、山を削り、川を汚した。もはや我らは守護者ではいられない』

巨人たちは次々と立ち上がった。一体、二体、三体…。日本中の山々が動き始めたのだ。

『我らは去る。大地の安定も、地震の抑制も、もはや我らの仕事ではない』

山田は叫んだ。

「そんなことをしたら、日本は…!」

『それが、お前たちの選んだ道だ』

巨人たちは歩き始めた。その巨大な足音は、まるで地震のように大地を揺らした。向かう先は海。彼らは日本を去ろうとしていた。

山田は膝をついた。鬼ヶ島は、守護者たちの聖域だった。桃太郎は、人類の代表として和平を結んだ英雄だった。それなのに、現代の人類は…

「博士!大変です!」

佐藤が駆け寄ってきた。

「日本各地で地震が多発しています。震度は小さいですが、これは…」

守護者たちが去ることで、日本列島の地殻バランスが崩れ始めていた。このままでは、本当に日本は沈没してしまうかもしれない。

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