前回の話
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第3話「森の仙人と熊」
ゴンタは急峻な山道を登っていた。他の動物たちが諦めた後も、彼だけは仙人を探し続けていた。
三日目の朝、ついに小さな小屋を見つけた。
「誰かいるか?」
返事はない。しかし、煙突から細い煙が立ち上っている。ゴンタが近づくと、扉が静かに開いた。
現れたのは、髭を蓄えた老人だった。
「熊が人の言葉を話すとはな」
老人は驚きもせず、ゴンタを小屋に招き入れた。
「あんたが仙人か?」
「仙人?ただの元研究者だよ。名前は佐藤」
佐藤と名乗った老人は、かつてニュータウン計画の中心人物だったと語った。
「私が若い頃、人類は自然との共生を諦めた。そして完全管理都市を作り始めた」
「あんたもその片棒を担いだのか」
「そうだ。だが、ある時気づいたんだ」
佐藤は窓の外を見た。
「生命は管理できない。いや、管理した瞬間に、それは生命ではなくなる」
彼は20年前、すべてを捨てて森に来た。以来、動物たちと共に暮らしている。不思議なことに、言葉が通じるようになったのは、森に来てからだった。
「人間も動物も、本来は通じ合えるんだ。ただ、都市に住む人間はその能力を失った」
「じゃあ、森を守る方法は?」
佐藤は首を横に振った。
「力では無理だ。だが…」
彼は古い端末を取り出した。
「ニュータウンのシステムには、私が仕込んだバックドアがある。もし本当に必要な時が来たら、これを使えばいい」
「何ができる?」
「環境制御システムを一時的に停止できる。人間たちに、本当の自然を体験させることができる」
ゴンタは考え込んだ。それは諸刃の剣だ。
「でも、準備のない人間が急に自然にさらされたら…」
「そうだ。パニックになるだろう。だが、それでも気づく者はいるはずだ」
佐藤は静かに微笑んだ。
「自然は敵じゃない。ただ、共に生きる方法を忘れただけだ」
山を下りながら、ゴンタは迷っていた。この力を使うべきか。それとも、別の道を探すべきか。
森に帰ると、仲間たちが不安そうに待っていた。重機の音が、日に日に近づいてきていた。
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