隕石が落ちたその日から:第5話「新しい元素の発見」

サイエンスフィクション

前回の話

隕石が落ちたその日から:第4話「生存者たちの集い」
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第5話「新しい元素の発見」

少年の容態は安定していた。背中の芽は成長を止め、少年の体温や脈拍は正常値を保っていた。

「これは興味深い」

山田教授が顕微鏡を覗きながら言った。彼女は少年の血液サンプルを調べていた。

「血液中に未知の元素が含まれています」

「未知の元素?」

私は彼女の隣に立った。

「周期表にない元素です。いえ、正確には……周期表の概念を超えています」

田中が手製の分析装置を持ってきた。電子機器は使えないが、化学反応を利用した原始的な装置なら動く。

「質量分析の結果が出た。原子量は……これは、ありえない」

「どうしたの?」

「原子量が変動している。まるで、生きているかのように」

私たちは顔を見合わせた。生きている元素? そんなものが存在するのか。

その夜、私は夢を見た。いや、夢というより、ビジョンだった。

宇宙の彼方、死にゆく恒星の周りを回る惑星。そこでは、最後の生命体が必死に生き延びようとしていた。彼らは自らの体を元素レベルで作り変え、宇宙を旅する術を身につけた。

そして、長い旅の末、彼らは地球を見つけた。豊かな生命に満ちた、青い惑星を。

目が覚めると、枕元に小さな結晶が置かれていた。それは、少年の血液から採取した新元素の結晶だった。誰が置いたのか。

結晶を手に取ると、不思議な感覚が広がった。まるで、結晶と意思疎通しているような……。

「おはよう」

声が聞こえた。いや、声ではない。直接、脳に響く何か。

「驚かないで。我々は対話を望んでいる」

「あなたは……隕石の……」

「我々に名前はない。しかし、お前たちの言葉で言えば『旅人』だ」

結晶が温かくなった。

「我々は死にゆく世界から来た。そして、この美しい星に辿り着いた」

「侵略が目的か」

「侵略? いいや。我々は共生を望んでいる」

結晶から映像が流れ込んできた。それは、彼らの故郷の最期の姿だった。

「我々は学んだ。征服では何も得られないことを。だから、我々は選んだ。共に生きる道を」

「しかし、人々は恐れている」

「当然だ。未知への恐怖は、生命の本能だから」

結晶が脈動した。

「だが、恐怖を乗り越えた先に、新たな可能性がある」

その時、ドアが開いた。山田教授が入ってきた。

「あら、起きていたの」

彼女の手にも、同じ結晶があった。

「教授も……」

「ええ。素晴らしい対話だったわ」

彼女は微笑んだ。

「この元素、仮に『ハーモニウム』と名付けました。調和の元素という意味です」

「適切な名前だ」

私は結晶を見つめた。

「でも、全ての人が受け入れるとは限らない」

「ええ。だから、時間が必要なのよ」

窓の外を見ると、少年が校庭を歩いていた。背中の植物は小さな花を咲かせていた。その姿は、不思議と自然に見えた。

共生か、拒絶か。

人類は今、大きな選択を迫られていた。

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