天文台の観測員である私は、その夜、いつものようにモニターを眺めていた。コーヒーを片手に、宇宙の彼方から届く電波を解析する。退屈な仕事だ。
「また異常なし、か」
同僚の田中が欠伸をしながら言った。彼はもう三十年もこの仕事をしている。私はまだ五年目の新米だ。
「待てよ」
画面に奇妙な波形が現れた。規則的なパルス。自然現象にしては整いすぎている。
「これは……」
田中が身を乗り出した。彼の顔から眠気が消えた。
「人工的な信号だ」
私たちは顔を見合わせた。まさか、地球外生命体からの通信か。しかし、発信源を調べると、それは地球に向かってくる小惑星からだった。
「おかしいな。ただの岩の塊のはずだが」
翌日、私たちは上層部に報告した。しかし、彼らの反応は予想外だった。
「その情報は機密扱いとする。一切口外するな」
所長の顔は青ざめていた。まるで何かを知っているような……。
一週間後、政府は突然、大規模な防災訓練を発表した。「隕石落下を想定した訓練」だという。マスコミは大げさだと笑った。市民も半信半疑だった。
しかし、私と田中は知っていた。あの信号の意味を解読できたからだ。それは警告だった。「我々は到着する。準備せよ」と。
訓練の日、空は晴れていた。サイレンが鳴り響く中、人々は指定された避難所へ向かった。子供たちは遠足気分で、大人たちは仕事を休めることを喜んでいた。
「本当に隕石なんか落ちるのかね」
避難所で、老人が隣の人に話しかけていた。
「さあ、どうでしょう。でも、備えあれば憂いなしですから」
その時、私のポケットの中で、極秘の通信機が震えた。メッセージは短かった。
「接触まであと72時間」
私は窓の外を見上げた。青い空に、小さな光の点が見えた。肉眼では見えないはずなのに、なぜか見えた。それは、ゆっくりと、確実に、大きくなっていた。
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