前回の話

第6話「闇の勢力との対決」
最後の手紙を持って外に出ると、街が変貌していた。
建物が透け始め、人々の姿が揺らいでいる。古い世界が、限界を迎えていた。
「急がないと」
田中が走り出すと、前方に黒い壁が立ちはだかった。
「やはり来たか」
闇の配達員たちが、大勢集まっていた。いや、正確には、届けられなかった手紙たちが人の形を取っている。
「新しい世界は要らない」
「変化は破壊だ」
「現状維持こそ正義」
口々に叫ぶ彼らの言葉も、一理ある。変わらないことの安心感。それを求める気持ちも分かる。
だが、田中は進んだ。
「手紙は届けなければ意味がない」
闇の勢力が襲いかかる。黒い手紙が竜巻のように田中を包む。
その時、配達カバンが光った。
これまで届けた人々が、光となって現れた。記憶を取り戻した老人、時を超えた恋人、声を取り戻した歌姫、許された配達員、真実を知った者。
「あなたのおかげで、私たちは救われた」
「今度は、私たちが手伝う番」
光と闇がぶつかり合う。届けられた手紙と、届けられなかった手紙の戦い。
田中は理解した。これは善悪の戦いではない。すべては手紙。想いを伝えたいという、同じ願いから生まれている。
「みんな、同じなんだ」
田中は最後の手紙を高く掲げた。
「この新しい世界には、届けられなかった手紙たちの場所もある。すべての想いが届く世界を、私は書いた」
闇の勢力が動きを止めた。
「本当に……?」
「手紙に嘘は書けない。郵便配達員の誇りにかけて」
黒い手紙たちが、少しずつ色を取り戻していく。
「信じてもいいのか」
「配達員を信じられないなら、誰が手紙を運ぶんです」
田中の言葉に、闇の勢力は道を開けた。
最後の配達先は、世界の中心。すべての手紙が生まれ、還っていく場所。
巨大な郵便ポストが、そこに立っていた。
「これで終わりか」
田中は深呼吸をして、最後の手紙を投函した。
瞬間、世界が光に包まれた。
古い世界が手紙となって舞い上がり、新しい世界が文字となって降り注ぐ。
壮大な、世界の配達が完了した瞬間だった。
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