前回の話

第4話「消えた手紙の行方」
三通目の手紙を持って劇場に向かう途中、田中は異変に気づいた。
手紙が、消えた。
「えっ?」
配達カバンを探っても、どこにもない。慌てて地図を広げると、光が乱れている。
「盗まれた?」
その時、背後から声がした。
「その手紙は渡せません」
振り返ると、黒いスーツの男が立っていた。手には消えた手紙。
「あなたは?」
「闇の配達員とでも呼んでください。世界が変わることを望まない者たちの使いです」
男の周りの空気が歪んでいる。
「なぜ邪魔を?」
「現状維持こそが平和。余計な奇跡は混乱を生むだけです」
田中は反論した。
「でも、人々は救われている」
「消えているの間違いでしょう。あなたは気づいていないのですか? 届けた相手は、この世界から消えている」
確かにその通りだった。だが、田中には確信があった。
「消えたんじゃない。本来いるべき場所に戻っただけだ」
「詭弁ですね」
闇の配達員が手紙を破ろうとした瞬間、地図が激しく光った。
地図から無数の手紙が飛び出し、男を包み込む。過去に届けられなかった手紙たち。戦争で届かなかった恋文、事故で渡せなかった遺書、すれ違った謝罪の言葉。
「やめろ!」
男が叫ぶ。
「これは……私が届けられなかった……」
闇の配達員も、かつては普通の配達員だった。だが、届けられなかった手紙の重みに押しつぶされ、闇に堕ちた。
「届けられないことも、配達員の宿命です」
田中が静かに言った。
「でも、だからこそ、届けられる手紙は大切にしなければ」
男の手から、三通目の手紙がするりと抜け出し、田中の元へ戻った。
「……負けました」
闇の配達員は崩れ落ちた。その体が、黒い手紙となって散っていく。
最後に一通だけ、白い手紙が残った。『許しを求める配達員へ』
「これは……」
四通目の手紙だった。闇の配達員自身が、最後の宛先だったのだ。
田中は三通目を劇場に届けた。声を失った歌姫は、手紙を読んで歌声を取り戻し、光の中へ消えていった。
残り三通。世界の紫色は半分ほどに薄れていた。
「すべての手紙には、意味がある」
田中は闇の配達員の最期を思い出しながら、次の配達先を探し始めた。
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