前回の話

第3話「配達員と魔法の地図」
二通目の配達で、田中は困り果てていた。
『時を超えた恋人たちへ』という宛名では、探しようがない。手紙の温度変化も、今回は反応が鈍い。
「こんな時は」
田中は郵便局に戻った。局長が待っていたかのように微笑む。
「行き詰まったか」
「ヒントをください」
「君には特別な道具を渡し忘れていた」
局長が取り出したのは、古ぼけた配達用の地図だった。
「ただの地図じゃないですか」
「広げてごらん」
地図を広げると、街の風景が立体的に浮かび上がった。建物が小さな模型のように現れ、人々が米粒のように動いている。
「すごい」
「配達員の心が純粋なら、地図は真実を見せてくれる」
田中が二通目の手紙を地図にかざすと、一筋の光が走った。光は街を横切り、駅前の時計台で止まった。
「時計台か。確かに『時を超えた』という言葉に合う」
時計台に着くと、管理人の老女が待っていた。
「やっと来たわね」
「僕を知っているんですか?」
「五十年前、ある配達員が手紙を預けていったの。『いつか必ず、若い配達員が取りに来る』って」
老女が差し出したのは、色褪せた手紙だった。
「これと交換よ」
田中は二通目の手紙を渡した。老女が封を開けると、中から若い男性の写真が出てきた。
「まあ……」
老女の目に涙が浮かぶ。
「初恋の人。戦争で生き別れになって、それきり。でも、こんな形で……」
写真の裏には、震える字で書かれていた。『時を超えて愛している』
老女は深く息を吸い込むと、若返っていった。皺が消え、白髪が黒くなり、二十歳の姿に戻る。
「今なら会える。時を超えて」
若返った女性は、光の中に消えていった。
残された古い手紙を開くと、三通目が入っていた。『声を失った歌姫へ』
地図を見ると、新たな光が劇場を指している。
「人生をやり直すチャンスか」
田中は複雑な気持ちだった。手紙は人を救うが、この世界から消してもいく。
「これが正しいことなのか?」
疑問を抱きながらも、配達を続ける。空の紫色は、確実に薄らいでいた。
地図が、次の真実を示すまで、あと少し。
コメント