最後の願いを買う本屋:第5話「星を返品した少女」

ファンタジー

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最後の願いを買う本屋:第4話「間違えた願い」
前回の話第4話「間違えた願い」ある雨の午後、願書堂に一人の中年男性が駆け込んできた。彼はずぶ濡れで、顔は青ざめていた。「大変なことをしてしまった」男性は震え声で言った。手には『最後の願い』の本が握られていた。「どうされました?」老人は落ち着...

第5話「星を返品した少女」

次に願書堂を訪れた時、店内には高校生くらいの少女がいた。彼女は大きな箱を抱えていた。

「返品をお願いします」

少女はきっぱりと言った。

「返品?」老人は眉をひそめた。「うちは返品は受け付けていませんが」

「でも、これは不良品です」

少女は箱を開けた。中には、小さく光る石のようなものが入っていた。

「これは……星?」

私は驚いて声を上げた。

「そうです。私は『自分だけの星が欲しい』と願いました。でも、これじゃあ意味がありません」

確かに、箱の中の星は美しく輝いていた。しかし、手のひらに乗るほど小さかった。

「どこが不満なのですか?」老人は尋ねた。

「小さすぎます。それに、誰も信じてくれません。『それただの光る石でしょ』って」

「でも、これは本物の星ですよ」

「本物でも、誰も信じなければ意味がないんです」

少女は箱を閉じた。

「私は、夜空に輝く自分の星が欲しかった。みんなが見上げて『あれが彼女の星だ』って言ってくれるような」

「なるほど」老人は頷いた。「でも、願いは正確に叶えられています。『自分だけの星』。それは、あなただけのものという意味です」

「屁理屈です」

「いいえ、これが願いの本質です。言葉通りに叶うのです」

少女は諦めたように溜息をついた。

「じゃあ、この星はどうすればいいんですか?」

老人は少し考えてから、微笑んだ。

「大切に持っていなさい。いつか、その価値が分かる時が来ます」

「こんな小さな星に価値なんて」

「小さくても、それはあなただけの星です。夜空の星は誰のものでもありませんが、その星は確実にあなたのものです」

少女は箱を見つめた。確かに、星は優しい光を放っていた。

「それに」少女の言葉をさえぎり私が口を挟んだ。

「手元にある方が、いつでも見られていいじゃないですか」

少女は私を見た。

「あなたも願いを?」

「まだです。怖くて」

「賢いと思います」少女は苦笑した。「私みたいに、勢いで願わない方がいい」

少女は箱を抱えて店を出ていった。返品はできなかったが、少し表情が和らいでいた。

「星を願う人は多いんですか?」

私は老人に尋ねた。

「ええ、でも満足する人は少ない。人は大きなものを求めがちですから」

「でも、小さくても本物の星なんですよね」

「そうです。価値は大きさではありません。でも、それに気づくには時間がかかるものです」

窓の外を見ると、夕暮れの空に一番星が輝いていた。あの少女の星も、きっと同じように輝いているのだろう。

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