最後の願いを買う本屋:第2話「少年の1ページ」

ファンタジー

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最後の願いを買う本屋:第1話「古びた本屋の秘密」
駅から三つ目の角を曲がった路地裏に、その本屋はひっそりと佇んでいた。看板には「願書堂」とだけ書かれている。扉を開けると、カビ臭い空気と共に小さな鈴の音が響いた。薄暗い店内には、天井まで届く本棚がぎっしりと並んでいる。「いらっしゃい」カウンタ...

第2話「少年の1ページ」

翌日、私が願書堂を訪れると、店内に小学生くらいの少年がいた。彼は本棚の前で、じっと一冊の本を見つめていた。

「それが欲しいのかい?」

老人が優しく声をかけた。少年は振り返ると、涙で濡れた顔を見せた。

「お母さんが、病気で……」

少年の手には、『最後の願い』と同じような白い本が握られていた。

「でも、お金が足りなくて」

少年は小さな財布から、くしゃくしゃの千円札を二枚取り出した。

「それで十分だよ」

老人はそう言って、本を少年に渡した。

「でも、三千円って」

私が口を挟むと、老人は首を振った。

「値段は人それぞれです。その子にとっての二千円は、あなたの三千円と同じ価値がある」

少年は本を大事そうに抱えて、店を飛び出していった。

「あの子の願いは叶うんですか?」

「さあ、どうでしょう。願いが叶うかどうかは、本人次第です」

老人はカウンターに戻ると、古い帳簿を開いた。

「ところで、あなたはもう願いましたか?」

「いえ、まだ……何を願えばいいか分からなくて」

「賢明ですな。焦って願う人ほど、後悔することが多い」

私は昨日買った本を取り出した。相変わらず、最初のページ以外は真っ白だった。

「この本、他の人も同じものを買っているんですか?」

「いいえ、一人一冊。それぞれ違う本です」

「でも、見た目は同じじゃないですか」

「見た目が同じでも、中身は違います。願いは人の数だけありますから」

その時、店の扉が勢いよく開いた。先ほどの少年が、息を切らして戻ってきた。

「おじいさん!」

少年は本を差し出した。開かれたページには、びっしりと文字が書かれていた。

「読めないんです。難しい字ばかりで」

老人は眼鏡を直すと、ページを覗き込んだ。

「ふむ、これは古い言葉で書かれていますな。私が読んであげましょう」

老人は静かに読み始めた。それは、願いを叶えるための手順だった。複雑で、大人でも理解するのが難しい内容だった。

「分かった?」

少年は首を横に振った。

「大丈夫。本当に願いたいことがあれば、必ず方法は見つかります」

老人は本を閉じて、少年に返した。

「明日また来なさい。一緒に考えてあげよう」

少年は嬉しそうに頷いて、今度こそ店を出ていった。

「子供には酷じゃないですか?」

「酷?」老人は首を傾げた。「願いに年齢は関係ありません。むしろ、子供の方が純粋な願いを持っているものです」

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