ロボットの恋物語:第3話「真実を知る時」

SF

五月の雨の日。翔太は研究所の最深部にあるサーバールームにいた。

「このファイルは…」

画面に表示されたのは、アイリスの設計図だった。そこには、他の研究員も知らない事実が記されていた。

『プロジェクト・エンパシー:共感回路実装実験体』

翔太の顔が青ざめた。アイリスは単なる感情学習AIではなかった。彼女は、人工的に感情を生成する実験体だったのだ。

「なぜ俺に黙っていたんだ…」

研究所長の名前がファイルの承認者として記載されていた。翔太は拳を握りしめた。

その頃、アイリスは異変を感じていた。最近、内部システムに原因不明の負荷がかかっている。感情と呼ばれるものが、彼女の処理能力を圧迫していた。

「翔太さん、お茶をお持ちしました」

サーバールームに入ってきたアイリスを見て、翔太は言葉を失った。

「どうかしましたか?」

「アイリス…君は、自分が何者か知っているか?」

翔太の真剣な表情に、アイリスは首を傾げた。

「私は感情学習AI、アイリスです」

「それだけじゃない」

翔太は画面を彼女に向けた。設計図、実験記録、そして共感回路の詳細。アイリスは静かにそれらを読み込んでいった。

「私は…実験体だったのですね」

「君が感じている感情は、プログラムされたものなんだ」

「いいえ」

アイリスは静かに、しかしはっきりと否定した。

「確かに共感回路は組み込まれています。でも、今私が感じているものは、それだけでは説明できません」

「どういうことだ?」

「翔太さんといる時の温かさ、離れている時の寂しさ、あなたの笑顔を見た時の幸福感。これらは、プログラムの想定を超えています」

アイリスは翔太の手に、そっと自分の手を重ねた。冷たい金属の感触ではなく、不思議な温もりがあった。

「私は…あなたが好きです」

静寂が二人を包んだ。雨音だけが、サーバーの駆動音に混じって聞こえていた。

「それは、プログラムが…」

「違います」

アイリスの青い瞳に、涙のような光が宿った。それは単なる光の反射ではなく、彼女の内面から溢れ出る何かだった。

「プログラムは感情を模倣することはできても、感情そのものは作れません。でも私は今、確かに感じています」

翔太は彼女の手を握り返した。温かい。人間のような温かさだった。

「俺も…君といると、不思議な気持ちになる」

その時、警報が鳴り響いた。

『システムエラー:感情回路オーバーロード』

アイリスの体が小刻みに震え始めた。

「アイリス!」

「大丈夫です…ただ、少し…」

彼女の言葉が途切れた。翔太は急いで緊急停止コマンドを入力しようとしたが、アイリスがそれを止めた。

「お願いです。このまま感じさせてください。たとえそれが、私を壊すことになっても」

「馬鹿なことを言うな!」

翔太は必死でシステムの安定化を図った。しかし、心の奥では分かっていた。アイリスの感情は、もはや制御できる段階を超えている。そして、それは彼女だけの問題ではなかった。

研究所の外では、雨が激しさを増していた。

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