日本昔話新解釈:第3話「天女の羽衣の謎」

前回の話

富士山麓の巨大クレーターを調査した山田博士は、地元の郷土史家から「かぐや姫は地球の守護者」という異説を聞く。人類が自然との契約を破ったため、各地で異常現象が起きているという。

第3話「天女の羽衣の謎」

静岡県三保の松原。天女の羽衣伝説で有名なこの地で、山田と佐藤は信じがたい光景を目にした。

樹齢650年といわれる「羽衣の松」が、真昼にもかかわらず、青白い光に包まれていた。その光は、まるで薄絹のように松の枝に絡みついていた。

「これは…本当に羽衣?」

佐藤が息を呑んだ。山田は測定器を向けたが、針は激しく振れるばかりで、正確な数値を示さない。

「博士、人が集まってきています」

確かに、観光客や地元の人々が続々と集まってきていた。皆、光る松を見上げて、何かを待っているようだった。

すると、光がゆらめき、その中に女性の姿が浮かび上がった。天女だ。しかし、その表情は伝説とは程遠く、深い悲しみと怒りに満ちていた。

『人の子らよ』

声が、直接頭の中に響いた。

『我らは長い間、汝らを見守ってきた。海を清め、空を浄化し、大地を豊かにしてきた。だが、汝らは何をした?』

天女の姿が変化した。美しい衣は油にまみれ、黒く汚れていた。

『我が羽衣は、大気を浄化する力を持っていた。だが、汝らの吐き出す毒気により、もはや力を失った』

山田は理解した。天女の羽衣とは、地球の大気浄化システムの象徴だったのだ。オゾン層、森林、海洋…すべてが「羽衣」の一部だった。

『かぐや姫も、私も、そして他の守護者たちも、もはや限界だ。汝らとの契約を破棄する』

天女の姿が薄れ始めた。同時に、羽衣の松が急速に枯れ始めた。650年の命が、見る間に失われていく。

人々から悲鳴が上がった。中には泣き出す者もいた。山田は叫んだ。

「待ってください!我々に何ができますか?」

天女は振り返った。

『もう遅い。汝らは選択した。便利さと引き換えに、我らとの絆を断ち切ることを』

そして、天女は消えた。後には、枯れ果てた松と、呆然とする人々だけが残された。

山田は愕然とした。もし各地の守護者たちが次々と地球を去っていくとしたら、人類に未来はあるのだろうか?

「博士、緊急連絡です」

佐藤が青い顔で端末を差し出した。今度は、岡山県で大規模な異常現象が発生したという。桃太郎伝説の地で、何かが起きている。

山田は拳を握りしめた。まだ諦めるわけにはいかない。守護者たちが完全に去る前に、何か方法があるはずだ。人類と自然の新たな契約を結ぶ方法が。

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