前回の話
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第6話「歩み寄るのはどちらか」
撤退から一週間。ニュータウン・エデンのシステムは徐々に安定を取り戻していた。しかし、田中の中では何かが変わり始めていた。
「本当に、このままでいいのだろうか」
彼は窓から見える完璧な景色に、初めて違和感を覚えた。
一方、原生林では動物たちが議論していた。
「人間どもは撤退した。でも、いつまた来るか」
「仙人の力を使うべきだ」
「いや、それは最後の手段だ」
ゴンタは悩んでいた。システムを止めれば、人間たちは自然の力を思い知るだろう。だが、それは多くの犠牲を生む可能性があった。
その時、一人の人間が森にやってきた。鈴木だった。
「話がしたい」
彼女は武器を持たず、一人で来た。動物たちは警戒したが、ゴンタは彼女を通した。
「なぜ来た?」
「分からないことがあるんです。なぜ私たちのシステムが…」
「お前たち人間は、自然を支配できると思っている。でも本当は、自然の一部なんだ」
鈴木は考え込んだ。
「でも、自然のままでは人は生きられない。病気、飢餓、災害…」
「それも含めて生きることだ」
老猪のイチローが口を挟んだ。
「お前たち人間は、死を恐れるあまり、生きることを忘れた」
鈴木の目に涙が浮かんだ。確かに、ニュータウンでは死はタブーだった。老いも病も、すべて管理と医療で先延ばしにされる。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「まず、恐れることをやめることだ」
ゴンタは佐藤から聞いた話を思い出した。
「仙人が言っていた。共生とは、支配することでも支配されることでもない。互いを認め、バランスを保つことだと」
鈴木は深くうなずいた。そして、提案した。
「小さな実験をしてみませんか?ニュータウンの一区画だけ、管理を緩めてみる。少しずつ、自然を取り入れてみる」
動物たちは顔を見合わせた。
「信用できるか?」
「分かりません。でも、このままでは共倒れです」
ゴンタは決断した。
「やってみよう。ただし、約束してくれ。失敗したら、すべての管理をやめると」
鈴木は震える声で答えた。
「約束します」
歩み寄るのは、どちらか一方ではない。両方が一歩ずつ近づく時、初めて出会うことができる。
その夜、田中は鈴木からの報告を聞いて、深いため息をついた。
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