人間は自然と共生できない:第5話「均衡のもつれ」

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第5話「均衡のもつれ」

ニュータウン・エデンに異変が起きたのは、田中が原生林の調査に出かけた日だった。

最初は些細なことだった。空調システムの温度が0.5度上昇した。すぐに修正されたが、1時間後には湿度に異常が発生した。

「どうなっている?」

管理センターでは、技術者たちが慌てふためいていた。

完璧なはずのシステムが、次々と不具合を起こし始めた。まるで、見えない何かが抵抗しているかのように。

原生林では、田中が調査チームを率いて森に入っていた。

「やはり無秩序だな」

彼の目には、倒木も、枯れ葉も、すべてが無駄に見えた。しかし、同行していた若い研究員の鈴木は違う感想を持った。

「でも、なんだか…生きている感じがします」
「生きている?当たり前だろう」
「いえ、そうじゃなくて。ニュータウンとは違う意味で…」

鈴木は上手く表現できなかった。ただ、この森には都市にはない何かがあると感じていた。

その時、ゴンタが姿を現した。

「人間ども、ここで何をしている」

田中たちは驚いて銃を構えた。熊が人の言葉を話している。

「撃つな!」

鈴木が叫んだ。

「こいつ、本当に話してる…」

ゴンタは静かに言った。

「お前たちの都市で、今何が起きているか知っているか?」

田中が通信機を確認すると、ニュータウンから緊急連絡が入っていた。システムの異常が拡大し、制御不能になりつつあるという。

「なぜ知っている?」
「すべては繋がっているんだ。お前たちが森を壊せば、都市も壊れる」

それは迷信のように聞こえた。しかし、データは確かに相関を示していた。原生林への侵入と、システムの不具合のタイミングが一致している。

「馬鹿な。科学的にありえない」
「科学?お前たちの科学は、生命の一部しか見ていない」

ゴンタは続けた。

「仙人が言っていた。自然を管理しようとすればするほど、より大きな力で押し返される。それが均衡だ」

ニュータウンでは、パニックが始まっていた。完璧に管理されていた市民たちは、わずかな環境の変化にも対応できなかった。

室温が2度上がっただけで、熱中症で倒れる者が続出した。

「撤退だ」

田中は苦渋の決断を下した。森から手を引けば、システムが安定するかもしれない。

非科学的だと思いながらも、他に選択肢はなかった。

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