隕石が落ちたその日から:第7話「生まれ変わった地球」

サイエンスフィクション

前回の話

隕石が落ちたその日から:第6話「新生物の誕生」
前回の話第6話「新生物の誕生」ハーモニウムの発見から一ヶ月後、世界は大きく変わり始めていた。適合者と呼ばれる人々が増え、彼らは植物と一体化した新たな能力を持っていた。光合成による栄養補給、植物との意思疎通、さらには胞子による長距離通信。一方...

第7話「生まれ変わった地球」

あれから十年が経った。

私は今、かつて天文台があった丘の上に立っている。ここからは、生まれ変わった地球の姿が一望できる。

町は緑に覆われているが、それは荒廃ではない。建物と植物が共生し、新たな都市の形を作り出している。道路は生きた木の根でできており、建物の壁は呼吸する苔で覆われている。

「懐かしいな」

隣に立つ田中が言った。彼の髪には白いものが混じっているが、瞳は若い頃と変わらない輝きを保っている。

「あの頃は、世界が終わると思っていた」

「ある意味、終わったのかもしれない」

私は微笑んだ。

「古い世界が終わり、新しい世界が始まった」

今、人類は三つのグループに分かれている。

完全適合者は、植物と完全に一体化した。彼らは森の守護者となり、新しい生態系を管理している。

部分適合者は、人間の姿を保ちながら、ハーモニウムの恩恵を受けている。病気に強く、寿命も延びた。私と田中もこのグループだ。

そして、純粋人間。彼らは変化を拒み続けているが、もはや敵対はしていない。平和条約が結ばれ、それぞれの領域で暮らしている。

「山田教授は元気かな」

田中が空を見上げた。

「ええ、きっと」

山田教授は五年前、完全適合者となることを選んだ。今は太平洋の海底都市で、新生物の研究をしているという。

「そういえば、今日は記念日だったな」

「ええ、『第一接触』から、ちょうど十年」

私たちは丘を下り始めた。途中、あの少年に出会った。いや、もう青年と呼ぶべきか。彼の背中の植物は見事な大樹に成長し、多くの人々の憩いの場となっている。

「先生方、お久しぶりです」

「元気そうだね」

「ええ、おかげさまで。今日は学校で、子供たちに昔の話をしてきました」

彼は今、新世代の教育に携わっている。適合者と純粋人間の子供たちが共に学ぶ学校で。

夕方、私は自宅に戻った。庭では、ハーモニウムの結晶が優しく輝いている。

「今日も一日、ありがとう」

結晶に話しかけると、温かい波動が返ってきた。

あの日、隕石が落ちた日から、世界は確かに変わった。

恐怖があり、混乱があり、対立があった。

しかし、今思えば、それは必要な過程だったのかもしれない。

蝶が蛹から羽化するように、地球は新たな姿に生まれ変わった。

そして、私たち人類も。

窓の外を見ると、空に不思議な光が見えた。オーロラのようで、そうではない。それは、地球全体を包む、ハーモニウムの輝きだった。

「美しい」

私は呟いた。

かつて、私たちは宇宙に知的生命体を探していた。

しかし、彼らは向こうからやってきた。

侵略者としてではなく、同じ宇宙を旅する仲間として。

そして今、地球は宇宙の中継地点となっている。

他の世界から来た者たちが、ここで休み、また旅立っていく。

私たちは、もはや孤独ではない。

結晶が、優しく脈動した。

まるで、同意するかのように。

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