隕石が落ちたその日から:第6話「新生物の誕生」

サイエンスフィクション

前回の話

隕石が落ちたその日から:第5話「新しい元素の発見」
前回の話第5話「新しい元素の発見」少年の容態は安定していた。背中の芽は成長を止め、少年の体温や脈拍は正常値を保っていた。「これは興味深い」山田教授が顕微鏡を覗きながら言った。彼女は少年の血液サンプルを調べていた。「血液中に未知の元素が含まれ...

第6話「新生物の誕生」

ハーモニウムの発見から一ヶ月後、世界は大きく変わり始めていた。

適合者と呼ばれる人々が増え、彼らは植物と一体化した新たな能力を持っていた。光合成による栄養補給、植物との意思疎通、さらには胞子による長距離通信。

一方で、拒絶者と呼ばれる人々も存在した。彼らは変化を拒み、適合者を敵視した。各地で小規模な衝突が起きていた。

私たちの避難所は、中立地帯となっていた。適合者も拒絶者も、ここでは共存していた。

「見て、これ」

青年プログラマーが、改良した観測装置を持ってきた。

「海の中で、何かが起きている」

画面には、太平洋の深海が映っていた。そこには、見たことのない生物が泳いでいた。

魚とも植物ともつかない、透明な生き物。体内でハーモニウムが輝いている。

「新種……いや、新しい生命体だ」

山田教授が興奮した。

「地球の生命とハーモニウムが融合して、全く新しい生態系が生まれている」

その時、少年が駆け込んできた。彼の背中の植物は、今や彼の一部となっていた。

「大変だ! 町で戦闘が起きてる!」

私たちは屋上に上がった。遠くの町から煙が上がっていた。

「拒絶者の武装グループが、適合者の集落を襲ったらしい」

元自衛官が双眼鏡を覗きながら言った。

「このままでは、内戦になる」

重い沈黙が流れた。

その夜、私は再び結晶と対話した。

「なぜ、こんなことに」

「変化には痛みが伴う。それは、宇宙の法則だ」

「防ぐ方法はないのか」

「ある。しかし、それには大きな決断が必要だ」

結晶から、新たなビジョンが流れ込んできた。

それは、可能性の未来だった。

適合者と拒絶者が共存する世界。新しい生態系と古い生態系が調和する世界。人類が宇宙に進出し、他の生命体と交流する世界。

「美しい」

「これは、一つの可能性に過ぎない。未来は、お前たちが選ぶ」

翌朝、驚くべきことが起きた。

戦闘が起きていた町から、巨大な樹が生えていた。一夜にして、ビルよりも高い樹が。

そして、その樹の周りでは、戦闘が止んでいた。

「あの樹から、何か……平和な感じがする」

看護師の女性が呟いた。

後で分かったことだが、樹は適合者と拒絶者の血が混ざった場所から生えたという。そして、樹の近くにいると、不思議と争う気が失せるのだという。

「これも、ハーモニウムの力か」

田中が呟いた。

「いいえ」

少年が首を振った。

「これは、僕たちの力だ。適合者も拒絶者も、みんなの」

彼の言葉に、私たちは希望を見出した。

共生は、強制されるものではない。選択されるものだ。

そして今、人類は新たな選択の時を迎えていた。

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