前回の話

第6話「新生物の誕生」
ハーモニウムの発見から一ヶ月後、世界は大きく変わり始めていた。
適合者と呼ばれる人々が増え、彼らは植物と一体化した新たな能力を持っていた。光合成による栄養補給、植物との意思疎通、さらには胞子による長距離通信。
一方で、拒絶者と呼ばれる人々も存在した。彼らは変化を拒み、適合者を敵視した。各地で小規模な衝突が起きていた。
私たちの避難所は、中立地帯となっていた。適合者も拒絶者も、ここでは共存していた。
「見て、これ」
青年プログラマーが、改良した観測装置を持ってきた。
「海の中で、何かが起きている」
画面には、太平洋の深海が映っていた。そこには、見たことのない生物が泳いでいた。
魚とも植物ともつかない、透明な生き物。体内でハーモニウムが輝いている。
「新種……いや、新しい生命体だ」
山田教授が興奮した。
「地球の生命とハーモニウムが融合して、全く新しい生態系が生まれている」
その時、少年が駆け込んできた。彼の背中の植物は、今や彼の一部となっていた。
「大変だ! 町で戦闘が起きてる!」
私たちは屋上に上がった。遠くの町から煙が上がっていた。
「拒絶者の武装グループが、適合者の集落を襲ったらしい」
元自衛官が双眼鏡を覗きながら言った。
「このままでは、内戦になる」
重い沈黙が流れた。
その夜、私は再び結晶と対話した。
「なぜ、こんなことに」
「変化には痛みが伴う。それは、宇宙の法則だ」
「防ぐ方法はないのか」
「ある。しかし、それには大きな決断が必要だ」
結晶から、新たなビジョンが流れ込んできた。
それは、可能性の未来だった。
適合者と拒絶者が共存する世界。新しい生態系と古い生態系が調和する世界。人類が宇宙に進出し、他の生命体と交流する世界。
「美しい」
「これは、一つの可能性に過ぎない。未来は、お前たちが選ぶ」
翌朝、驚くべきことが起きた。
戦闘が起きていた町から、巨大な樹が生えていた。一夜にして、ビルよりも高い樹が。
そして、その樹の周りでは、戦闘が止んでいた。
「あの樹から、何か……平和な感じがする」
看護師の女性が呟いた。
後で分かったことだが、樹は適合者と拒絶者の血が混ざった場所から生えたという。そして、樹の近くにいると、不思議と争う気が失せるのだという。
「これも、ハーモニウムの力か」
田中が呟いた。
「いいえ」
少年が首を振った。
「これは、僕たちの力だ。適合者も拒絶者も、みんなの」
彼の言葉に、私たちは希望を見出した。
共生は、強制されるものではない。選択されるものだ。
そして今、人類は新たな選択の時を迎えていた。
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