前回の話

第4話「生存者たちの集い」
政府機能が麻痺してから二週間が経った。
私は田中や山田教授と共に、山奥の廃校に身を潜めていた。ここには、約五十人の生存者が集まっていた。科学者、医者、教師、農家、様々な職業の人々。
「電磁波の影響を受けにくい場所を選んだつもりだが……」
田中が窓の外を見ながら呟いた。校庭の桜の木が、季節外れの花を咲かせている。花びらは虹色に輝いていた。美しいが、不気味だった。
夕食の時間、私たちは体育館に集まった。
「今日も、缶詰とクラッカーか」
若い女性がため息をついた。彼女は元看護師で、今は怪我人の手当てをしている。
「贅沢は言えませんよ。生きているだけで幸運です」
初老の男性が諭すように言った。彼は元自衛官で、この集団のリーダー的存在だった。
「そうだな。外では植物に食われる奴もいるんだから」
皮肉屋の青年が口を挟んだ。彼は元プログラマーで、今は手動の無線機を改良している。
食事の後、私は今日の観測結果を報告した。
「磁場の変動が激しくなっています。そして、新たなメッセージを解読しました」
皆が注目した。
「『適合者の選別中』だそうです」
「適合者?」
山田教授が眉をひそめた。
「おそらく、彼らの『改良』に適した人間を選んでいるのでしょう」
その時、体育館のドアが開いた。入ってきたのは、泥だらけの少年だった。
「助けて……」
少年は倒れ込んだ。看護師が駆け寄る。
「大丈夫? どこから来たの?」
「町から……皆、植物に……」
少年の背中を見て、皆が息を呑んだ。そこには、小さな芽が生えていた。
「隔離しろ!」
元自衛官が叫んだ。しかし、山田教授が止めた。
「待って。これは……共生かもしれない」
彼女は慎重に少年を観察した。
「芽は少年の生命活動と同調している。むしろ、少年を生かそうとしているようだ」
「まさか……」
私は気づいた。これが「適合者」なのか。
夜、私は一人で屋上に上がった。星空を見上げる。すると、見知らぬ女性が隣に立っていた。いつの間に……。
「美しい夜ね」
女性の声は、どこか懐かしかった。
「あなたは……」
「私? 私は元は東京にいた会社員よ。でも、今は違う」
女性が振り向いた。その瞳は、植物の葉のような緑色だった。
「怖がらないで。私は敵じゃない」
「適合者……ですか」
「そう呼ばれているらしいわね」
女性は微笑んだ。
「でも、私たちは選ばれたんじゃない。選んだのよ」
「選んだ?」
「共生することを。彼らと、この星と」
女性の髪が、風もないのにゆらめいた。よく見ると、髪の一部が細い蔦になっていた。
「あなたたちも、いずれ選択を迫られる。拒絶するか、受け入れるか」
「拒絶したら?」
「さあ、どうなるかしら」
女性は屋上の縁に立った。
「でも、一つ言えることがある。変化は、必ずしも悪いことじゃない」
そして、女性は飛び降りた。いや、飛んだ。背中から大きな葉が広がり、グライダーのように滑空していく。
私は呆然と、その姿を見送った。
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