隕石が落ちたその日から:第2話「混乱と避難」

サイエンスフィクション

前回の話

隕石が落ちたその日から:第1話「隕石落下の前兆」
天文台の観測員である私は、その夜、いつものようにモニターを眺めていた。コーヒーを片手に、宇宙の彼方から届く電波を解析する。退屈な仕事だ。「また異常なし、か」同僚の田中が欠伸をしながら言った。彼はもう三十年もこの仕事をしている。私はまだ五年目...

第2話「混乱と避難」

隕石が落ちたのは、予定より三時間早かった。

衝突地点は太平洋上。津波警報が発令され、沿岸部の住民は高台へと避難した。私は天文台の地下シェルターで、モニターに映る映像を見つめていた。

「直径は約五百メートル。被害は最小限に抑えられそうだ」

田中がデータを読み上げる。しかし、私の関心は別のところにあった。あの信号だ。隕石が大気圏に突入してから、信号は途絶えていた。

衝突の瞬間、画面が真っ白になった。そして、静寂。

「津波の高さは……予想より低い。せいぜい二メートルだ」

安堵の声が上がった。しかし、次の瞬間、新たな異常が検知された。

「隕石の落下地点から、強い電磁波が発生しています」

若い観測員が叫んだ。

「電磁波? 隕石からか?」

私は席を立った。これは、ただの天体衝突ではない。

地上では混乱が始まっていた。電磁波の影響で、電子機器が次々と故障した。スマートフォンは使えず、車は動かない。信号機も止まった。

「まるで江戸時代に戻ったみたいだ」

避難所で、若者が冗談を言った。しかし、誰も笑わなかった。

政府は緊急事態宣言を発令した。自衛隊が出動し、手動の無線機で連絡を取り合った。幸い、人的被害は少なかった。訓練が功を奏したのだ。

しかし、本当の問題はこれからだった。

三日後、私は調査チームの一員として、落下地点へ向かった。船で近づくと、奇妙な光景が広がっていた。

海面に、巨大なクレーターができていた。いや、クレーターというより、完璧な円形のくぼみだ。まるで、巨大なスプーンですくい取ったような……。

「隕石の破片が見当たりません」

ダイバーが報告した。

「蒸発したのか?」

「いえ、それにしては……」

私は双眼鏡でくぼみの中心を観察した。そこには、小さな金属の球体が浮いていた。直径は一メートルほど。表面は鏡のように滑らかだった。

「あれは何だ?」

誰かが呟いた。

私は知っていた。あれこそが、信号の発信源だ。そして、おそらく……。

「回収しましょう」

私は提案した。しかし、船長は首を振った。

「上からの指示を待て。勝手な行動は許されない」

その夜、私は甲板で星を見上げた。いつもと変わらない星空。しかし、何かが違う。まるで、星たちがこちらを見ているような……。

翌朝、球体は消えていた。

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