前回の話
竜宮城で人類の弁護をした山田博士。その最中、陸では妖怪たちが反乱を起こし、人間から現代文明の利器を奪い「自然との共生」を強制し始めた。これは妖怪たちなりの最後の警告だった。
第7話「新日本昔話の結末」
妖怪たちの「教育」が始まって一ヶ月が経った。
日本は、まるで江戸時代に戻ったかのようだった。電気のない夜、人々は月明かりの下で語り合った。水道のない日々、川や井戸の大切さを知った。
最初は混乱と怒りに包まれていた社会も、徐々に変化し始めていた。
「山田さん、見てください」
佐藤が指差した先には、子供たちが妖怪と一緒に田植えをしている姿があった。河童が水の管理を教え、座敷童が農作業を手伝っていた。
「三週間前には考えられない光景ですね」
確かに、人類と妖怪の関係は大きく変わっていた。恐怖の対象だった妖怪たちは、今や厳しくも優しい教師となっていた。
しかし、すべてが順調というわけではなかった。
政府や大企業は、この状況を「テロ」と断じ、自衛隊を動員して妖怪たちを排除しようとしていた。一方、多くの市民は妖怪たちとの共生を選び始めていた。社会は二分されていた。
ある日、山田のもとに乙姫からの使者が現れた。
『最後の審判の時が来た。富士山頂に来なさい』
山田と佐藤が富士山頂に着くと、そこにはすべての守護者が集まっていた。かぐや姫、天女、鬼たち、乙姫、そして無数の妖怪たち。
『一ヶ月の猶予を与えた』
かぐや姫が口を開いた。
『人類は変われることを証明した者もいれば、相変わらず愚かな者もいる。我々は決断しなければならない』
守護者たちは円を作り、議論を始めた。去るべきか、留まるべきか。
その時、予想外のことが起きた。
富士山頂に、大勢の人々が登ってきたのだ。老人も子供も、男も女も。皆、守護者たちに会いに来たのだった。
「お願いします、行かないでください」
「私たちが間違っていました」
「一緒に地球を守らせてください」
人々は口々に叫んだ。中には、涙を流す者もいた。
守護者たちは驚いた。特に妖怪たちは、人間たちの変化に心を動かされていた。
長い沈黙の後、かぐや姫が口を開いた。
『我々は…条件付きで留まることにする』
歓声が上がった。しかし、かぐや姫は手を上げて続けた。
『ただし、これは始まりに過ぎない。人類は自然との新しい契約を結ばなければならない。それは、昔話のような美しいものではない。厳しく、時に残酷な現実と向き合うことになる』
『電気や水道を完全に捨てる必要はない』乙姫が付け加えた。『しかし、使い方を根本から変えなければならない。自然と調和する技術を生み出すのだ』
『我々は監視者となる』鬼たちが言った。『二度と過ちを繰り返させはしない』
こうして、新しい日本昔話が始まった。
それは、人類が自然の一部であることを思い出す物語。
守護者たちと共に歩む物語。
時に厳しく、時に優しい、共生の物語。
山田は思った。これまでの昔話は、人類への警告だった。そして今、我々は新しい昔話を紡ぎ始めた。それは未来への約束であり、子供たちへの贈り物となるだろう。
夕日に染まる富士山頂で、人類と守護者たちは新しい契約を結んだ。
それは終わりではなく、本当の始まりだった。

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