前回の話
環境省の山田博士は、日本各地で竹林が謎の枯死を遂げる現象を調査していた。枯れた竹林から光の粒子が天に昇る様子を目撃し、竹取物語との関連を疑い始める。
第2話「かぐや姫の秘密」
富士山麓の光の柱を調査するため、山田と佐藤は現地へ向かった。
現場は立ち入り禁止となっていたが、特別調査官の権限で中に入ることができた。そこで彼らが見たものは、直径約百メートルの巨大なクレーターだった。
「まるで、何かが地面から飛び立ったような…」
佐藤がつぶやいた。クレーターの中心部には、ガラス化した土壌が広がっていた。高熱にさらされた証拠だ。
「放射線は?」
「検出されません。通常の核反応ではないようです」
山田は土壌サンプルを採取しながら、ふと気づいた。クレーターの形状が、竹の断面に似ている。
その夜、宿で資料を整理していると、地元の郷土史家だという老女が訪ねてきた。
「あなた方、かぐや姫のことを調べているそうですね」
老女は古い巻物を取り出した。そこには、一般に知られている竹取物語とは異なる記述があった。
「かぐや姫は月の世界から来たのではありません。彼女は地球の守護者だったのです」
巻物によれば、かぐや姫は人間たちに「竹」を与えた存在だという。竹は急速に成長し、二酸化炭素を吸収し、人々に建材や食料を提供した。それは、人類と自然が共生するための「契約」だったというのだ。
「しかし人間は約束を破った。竹林を破壊し、土地を汚染した。だから彼女は…」
老女の話を聞きながら、山田は各地の竹林消失のパターンを思い出した。すべて、開発が進み、環境破壊が深刻な地域から始まっていた。
翌朝、山田のもとに緊急連絡が入った。静岡県の茶畑で、巨大な女性の姿をした光が目撃されたという。目撃者の証言によれば、その光は「悲しそうな顔」をしていたという。
「まさか、本当にかぐや姫が…」
佐藤が信じられないという顔をした。山田も半信半疑だったが、科学では説明できない現象が次々と起きているのは事実だった。
山田は決意した。もし「かぐや姫」が実在し、人類に何かを訴えようとしているなら、それを理解しなければならない。
環境破壊の代償は、もはや単なる気候変動や生態系の崩壊だけではないのかもしれない。人類は、自然界との古い「契約」を破ったことで、想像を超える事態に直面しようとしているのかもしれない。
山田は静岡へ向かう準備を始めた。そこで待っているものが何であれ、逃げるわけにはいかなかった。

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