人間は自然と共生できない:第1話「人の住む町」

西暦2087年。環境省の若手職員、田中は窓から見える景色に満足していた。

「完璧だ」

彼の眼下に広がるのは、人類が到達した理想郷。ニュータウン・エデンと呼ばれるこの都市は、完全な環境制御システムによって管理されていた。

空気清浄度は常に最適値。温度は年中摂氏22度。雨は毎週火曜と金曜の深夜2時から4時まで。風は心地よい微風のみ。虫一匹いない。雑草一本生えない。

「自然との共生?」田中は鼻で笑った。「そんな幻想を追い求めた結果が、20世紀の環境破壊じゃないか」

彼の上司である山田部長が入室してきた。

「田中君、例の件だが」
「森林保護区の件ですか?」
「そうだ。まだ手つかずの原生林が残っているらしい。早急に管理下に置く必要がある」

田中は頷いた。人間が快適に暮らすには、自然を完全にコントロールする必要がある。それが21世紀の失敗から学んだ教訓だった。

「動物たちは?」
「保護施設に収容する。野生のままでは病原体を媒介する危険性がある」

山田部長の言葉は正論だった。かつて人類は自然と共生しようとした。その結果、パンデミック、自然災害、食糧危機。数え切れない犠牲を払った末に、人類は悟ったのだ。

自然は人間の敵だと。

「準備を進めます」

田中は端末を操作し始めた。画面には「環境完全管理計画・第7次」の文字が浮かんでいた。

その頃、数百キロ離れた原生林では、一匹の熊が不安そうに空を見上げていた。遠くから聞こえてくる重機の音。仲間たちがざわめき始めていた。

人間たちは知らない。自然を排除した世界で、自分たちが何を失いつつあるのかを。

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