日本昔話新解釈:第5話「竜宮城の試練」

前回の話

岡山県で山の巨人「鬼」と遭遇した山田博士。鬼の正体は大地の守護者であり、人類が環境を汚染したため日本を去ろうとしていた。守護者の離脱により、日本各地で地震が多発し始める。

第5話「竜宮城の試練」

太平洋沿岸に立った山田と佐藤の前に、信じがたい光景が広がっていた。

海が割れていた。

巨大な渦が海面に現れ、その中心から階段が伸びている。階段の先には、珊瑚と真珠で飾られた宮殿が見えた。竜宮城だ。

『最後の守護者である私が、人類に最後の機会を与えよう』

海の底から、荘厳な声が響いた。乙姫の声だった。

『一人だけ、竜宮城に入ることを許す。そして試練を受けよ。合格すれば、守護者たちを説得する機会を与えよう』

山田は迷わず前に出た。

「私が行きます」

佐藤が止めようとしたが、山田の決意は固かった。人類の未来がかかっているのだ。

海の階段を下りていくと、水の壁が山田を包んだ。しかし不思議なことに、息苦しさはなかった。

竜宮城の門をくぐると、そこは想像とは全く違う世界だった。美しい宮殿ではなく、海洋汚染の博物館のような場所だった。

プラスチックの山、油にまみれた魚たち、白化した珊瑚礁。人類が海に捨てたすべてのものが、ここに集められていた。

『これが、あなたがたが私に贈った「宝物」です』

乙姫が現れた。かつては美しかったであろう姫君は、今や疲れ果てた老婆のようだった。

『浦島太郎の物語を知っていますか?あれは時間旅行の話ではありません。海の時間と陸の時間の違いを示す警告だったのです』

乙姫は一つの箱を差し出した。

『これが玉手箱です。開けてごらんなさい』

山田が箱を開けると、中から映像が溢れ出した。それは、海の記憶だった。

清らかだった太古の海。生命が生まれ、育まれた母なる海。そして、人類が現れてからの海の変化。最初はゆっくりと、そして加速度的に汚染されていく様子。

『海の時間で見れば、人類の文明などほんの一瞬。しかし、その一瞬で、40億年かけて作られた海を破壊した』

山田は涙を流していた。映像の最後に、未来の海が映し出された。生命のいない、死の海。

『これがあなたがたの選んだ未来です。さあ、試練を受けなさい』

乙姫は山田を大広間に導いた。そこには、世界中の海の守護者たちが集まっていた。人魚、海神、水の精霊たち。皆、人類を裁くために集まったのだ。

『人類の代表よ。なぜ我々が人類を許すべきか、述べなさい。ただし、嘘や言い訳は通用しません。我々には、すべてが見えています』

山田は立ち上がった。人類の運命が、彼の言葉にかかっていた。

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