人間は自然と共生できない:第2話「動物の住む森」

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第2話「動物の住む森」

原生林の奥深く。熊のゴンタは仲間たちと緊急集会を開いていた。

「人間どもがまた来るらしい」

年老いた猪のイチローが重々しく告げた。森の動物たちに動揺が走る。

「また森が削られるのか」
「いや、今度は違う。俺たちを『保護』するんだとさ」

鹿のハナコが震え声で言った。保護。その言葉の裏にある真意を、動物たちは本能的に理解していた。

「檻の中で餌をもらって生きろってことだろ」

ゴンタの言葉に、皆が黙り込んだ。

実は、動物たちには人間が知らない能力があった。長い進化の過程で獲得した、微細な環境変化を感知する力。そして、その情報を種を超えて共有する能力。

「空気が変わってきている」

鳥のピーコが言った。

「ニュータウンの方から流れてくる風は、生き物の匂いがしない」

確かに、人間が作り出した完璧な環境は、ある意味で死んでいた。微生物すら排除された無菌都市。それは生命の循環から切り離された、巨大な墓場のようなものだった。

「このままじゃ、地球全体があの死んだ町みたいになる」

イチローが唸った。

「でも、どうすればいい?」

若い狐のコンが尋ねた。誰も答えられない。圧倒的な技術力を持つ人間に、動物たちが対抗する術はない。

その時、ゴンタが思い出した。

「山の奥に、仙人と呼ばれる人間が住んでいるって聞いたことがある」
「人間だろ?信用できるのか?」
「でも、もう何十年も森で暮らしているらしい。もしかしたら…」

わずかな希望にすがるように、動物たちは顔を見合わせた。

一方、ニュータウン・エデンでは、田中が原生林の航空写真を眺めていた。

「無秩序だ」

彼の目には、自然のままの森は混沌としか映らなかった。整理され、管理された美しさこそが、人間の求めるものだった。

「来週から作業開始だ」

田中は、森の運命を記したファイルに承認印を押した。

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